解体工事の精度は現地調査でほぼ決まります。搬入路や前面道路の条件、上空の電線や隣地との離隔などの把握が甘いと、工程の遅延や追加費用に直結します。本稿では初回現地調査で必ず押さえる視点を整理し、見積条件と安全計画に反映する具体的な考え方を示します。
搬入路と車両動線を確定する
重機やダンプの進入経路は最短より安全優先で設計します。道路幅員だけでなく、曲がり角の有効幅や電柱配置、突き出し看板の有無を実測し、バック進入の要否や待機場所の確保を判断します。袋小路や時間帯別の一方通行は回送計画に影響するため、学校の通学時間や商店の納品時間も把握して搬出時間を調整します。
前面道路の法規と占用の要否を確認する
道路種別や駐停車規制、歩道の幅と縁石形状は仮設計画の前提です。道路占用や使用許可が必要な場合は区間と期間を特定し、標識と誘導員の配置を図面に落とし込みます。側溝蓋やマンホールの位置と耐荷重、切り下げの要否を事前に整理しておくと復旧の範囲と費用が明確になります。
上空の障害物と仮設の干渉を読む
電線や通信線、支線や街路樹の枝はブームやアームの可動域と干渉します。離隔が不足する場合は低背重機や手壊しの割合増を前提にし、必要なら配線の防護や一時移設を調整します。養生足場の建て方やシートの張り方向も上空条件に合わせて設計します。
隣地との離隔と既存外構を点検する
隣家の軒や窓、共用ブロック塀の状態を確認し、傾きやひび割れは写真で記録します。離隔が小さい場合は手壊し区間や防音パネルの追加、散水の増強を計画に織り込みます。共用構造物の復旧線引きは図示して合意し、境界標の保全方法を先に決めます。
敷地内の地盤条件と埋設物の可能性を探る
敷地の高低差や土質、湧水や排水経路は重機の選定と整地品質に影響します。古いテラスや車庫の跡、庭石や花壇の痕跡は地中残存物の手がかりです。必要に応じて試掘を行い、埋設が出た際の単価と上限を契約条件に反映できるよう根拠写真を整えます。
周辺施設と時間帯の配慮を前提化する
学校や保育園や医療機関が近い場合は騒音工程を避ける時間帯を設けます。商店街や幹線沿いではピーク時の搬出を止め、早朝の静穏作業と日中の重機作業を組み合わせるなど、生活動線と共存する工程配分を検討します。
現地調査で必ず実測と記録を行う項目
- 前面道路と曲がり角の有効幅と段差の高さを実測する
- 電線と軒や看板の高さと位置を平面と立面で記録する
- 車両の待機と転回に必要なスペース寸法を図示する
- 側溝やマンホールや消火栓の位置と耐荷重を控える
- 境界標と共用ブロック塀の状態を写真台帳に残す
- 敷地内高低差と排水方向を水糸や水平器で確認する
調査結果を仕様書と工程に落とし込む
実測値は略図に寸法で記載し、養生仕様と車両サイズ、誘導員の人数と配置時間まで文章化します。道路占用が必要なら申請主体と提出期限を明記し、上空干渉がある場合は手壊し比率と作業時間帯を見積条件に固定します。写真台帳は全景と近景と詳細の三段で統一し、各社見積の共通前提として配布すると比較の精度が上がります。
現地調査は危険と追加費用の芽を事前に摘み取る工程です。数字と写真で条件を固定し、生活動線への配慮を組み込んだ動線計画を作ることで、着工後の迷いと差し戻しを最小化できます。結果として価格も工程も安定し、近隣との関係も良好に保たれます。