解体の成否は価格だけでなく業者の許可と体制で決まります。許可が不十分だと届出や処分で差し戻しが起きやすく、事故時の賠償や近隣対応にも不安が残ります。本稿では発注前に確認すべき許可と人員体制と保険の要点を整理し、低価格に引きずられない判断軸を提示します。
解体工事業の許可と技術者の要件を押さえる
解体工事を業として行うには解体工事業の建設業許可が基本です。請負金額の規模や工事内容に応じて許可区分が分かれ、現場には主任技術者の配置が求められます。主任技術者は解体工事施工技士や土木施工管理技士などの有資格者が担い、仮設や分別解体や安全管理の計画を現地で統括します。名義貸しを避けるため、配置予定者の氏名と資格を見積段階で明記させると透明性が高まります。
産業廃棄物の収集運搬と処分の体制を確認する
解体で発生する廃棄物は木くずやコンクリートがらや金属くずなど品目が多く、収集運搬と処分にはそれぞれの許可が必要です。自社で許可が無い場合は許可業者への委託契約が前提となり、マニフェストで搬出から最終処分までを追跡します。含有建材が石綿に該当する場合は特別管理の区分となるため、対象品目の許可が取れているかを写しで確認します。中間処理場や最終処分場の名称と所在地、直行か積替え保管かといったルートの説明ができる業者は運用が安定しています。
現場管理と安全衛生の資格と教育を点検する
石綿を扱う工程では事前調査に基づく作業区分に応じて石綿作業主任者の選任や保護具の管理が必要です。足場や高所作業の特別教育、小型移動式クレーンや玉掛けの資格、重機オペレーターの技能講習なども欠かせません。交通誘導が必要な道路条件では警備業者の手配と配置計画が品質に直結します。資格者名と教育記録の提示を求め、工程表に誰がどの時間帯を担当するかまで可視化すると現場の混乱を防げます。
万一に備える保険と賠償の枠組みを確認する
第三者への物損や人身に備える請負業者賠償責任保険は必須です。併せて建設工事保険や労災の上乗せ、使用車両の対人対物無制限の自動車保険も確認します。証券の名義と保険期間と補償限度額、免責金額を写しでチェックし、隣家の外壁や塀の損傷時の対応手順を契約書に記載しておくとトラブル時の初動が速くなります。
発注前に取り揃えるべき証跡の一覧
- 解体工事業の許可証の写しと有効期限と許可番号
- 主任技術者の資格証と現場配置予定者の氏名
- 産業廃棄物収集運搬と処分の許可証の写しと対象品目
- 処分委託契約書の雛形とマニフェスト運用の説明資料
- 請負業者賠償責任保険と建設工事保険と自動車保険の証券写し
- 石綿事前調査の報告書と掲示様式と作業区分に応じた体制図
体制が弱い業者に共通するサインを見抜く
現地を見ずに一式の概算だけを提示する、許可証の写し提出を渋る、産廃の処分先や運搬ルートの説明が曖昧、保険の補償限度額が極端に低い、こうしたサインは避けるべき赤信号です。反対に、届出や近隣挨拶や写真台帳やマニフェストの提出基準を最初から言語化できる業者は総じて現場運営が安定しています。価格は重要ですが、安全と法令順守と賠償の備えが揃って初めて妥当と言えます。許可と体制を文書で確かめ、比較表で並べてから発注することで、事故や追加費用のリスクを最小化できます。